私が長年予備校の教壇に立って得た一つの教訓は、『教えすぎない』ということでした。
学力は自分で考えることで身に付くもので、教えすぎると考える余地を奪ってしまうことになります。より重要な部分を理解させるために敢えて教えることを絞るのがプロであり、百貨店のようにありとあらゆる知識をこれでもかというほどに小奇麗に並べて教えることは、生徒にとって必ずしもプラスになるわけではないのです。例えていうなら、実際に生徒がたどり着く目的地までの道しるべを立ててやるのが教師の役目なのだと思っています。
ただ教えることに熱心な先生ほどこれが難しい。予備校講師になりたての頃、教えることが楽しくて授業の予習をこれでもかというくらいやって授業に臨んでいました。当然授業内容は盛り沢山なものになり、いくら時間があっても足らず、毎回のように授業時間を延長していました。次の授業に食い込むこともしばしばで他の講師からは苦情が出ていましたが、私は意に介さず生徒たちも満足しているはずだ、私の情熱が彼らに伝わっているはずだと思い込んでいました。それもそのはずでアンケートの結果がほとんど「満足」と出ていました。そして解り易い授業だという評判でした。
しかしながら今から思えば自己満足にしか過ぎない授業だったように思えます。「目の前にいる生徒たちにいかに満足してもらえるか」ということばかり考えていて、生徒たち本人が「試験や入試で実力を出せる」授業では必ずしもなかったのです。実際に試験を受けるのは生徒たちです。生徒たちが試験会場で問題に取り組んで正解を出せるようにしてあげるのが我々の仕事です。子供たちが、いくら「素晴らしい授業だ!」、「わかりやすい授業だ!」、「細かいところまで教えてくれる!」と納得してくれても、それが出題されたとき、正確に答えられなければ何にもなりません。「生徒受け」を狙って「わかりやすい授業」ばかりを追求していると、ここを忘れるのです。教えるものは将来の受験本番を意識して今日の授業を行っていかなければなりません。つまり、「生徒たちは受験会場でこの問題をどのようにして解いていくのかを考えながら教えていく必要があるのです。思考のベースとなる知識を与え、それをもとにいかに考えて解答に結びつけるかを教えていきます。「ヒントは与えるが、答えは生徒自身の手で」ということです。これをするには手間と時間がかかります。そのために必然的に『少人数授業』になります。TSKが少人数にこだわり続けているのはそのためなのです。