「学校の英語の先生から『文法や構文、単語を覚えようとするから英語が出来なくなるんだ。なので文法と構文は授業で教えません』と言われましたが、どうしたらいいでしょうか」というものでした。その先生がどのような文脈でそう言ったのか分かりませんが、進学校の教師としては、あまりにも乱暴な意見だったので、その生徒には次のように説明しておきました。
なるほど確かに実際の会話=コミュニケーションの場となると、単語と文法を意識している暇はありません。チャンク(=意味のまとまりないしフレーズ)を覚えれば、相手の話を聞く際、文法、構文など意識せずに、意味をとっていけますし、リスニング力も向上し、コミュニケーションがスムーズにとることが出来ます。会話の60%は、チャンクで作られているともいわれているので、覚えれば覚えるほど英語でのコミュニケーションの役に立つでしょう。
ただし、大学受験科目としての英語(=大学の合否を決める英語)となると話は別です。私は長らく河合塾で英語を教える傍ら、東北大オープン模試等の作成、各大学の入試予想問題や実際の入試問題の作成、予備校でのテキスト作成などに携わっておりました。大学入試英語の出題者側に立つ者としての経験を踏まえてお話ししたいと思います。大学受験科目の英語は、あくまでも試験問題としての英語学習なわけですので、試験問題を解くというアプローチで学習する必要があります。試験問題の採点基準は、客観的かつ説得力のあるものでなければなりません。でないと、合否判定が不公平、恣意的になってしまいます。英語の場合、それが文法・語法・構文なのです。もちろん昨今のコミュニケーション英語を意識した会話問題が増えてきてはいますが、主流は依然として長文読解であり変わっていません。
コミュニケーション手段としての英会話を意識して生徒達にお話しているのならば、その言は正しいでしょうが、入試英語を意識してお話ししているのであれば、大いに間違っています。大学入試問題、文法・語法問題や英作はもちろんのこと、長文総合問題でもその設問を詳細に検討すると中学英語や高校英語で習った文法・語法・構文の基礎的な知識を巧みに組み合わせ、内容と絡めて出題されているのが分かります。私も含め、生徒達に語る場合にはキチッと話の前提を明確にした上で話すことが大事だなと自省を込めて思った次第です。